愛情物語

いつだったかタイロン・パワーとキム・ノヴァーク主演の名画『愛情物語』をやっていたので、録画しておいたのを観てみました。

子供のころに一度見た覚えがうっすらありましたが、主人公がポピュラー音楽のピアニストで、やたらデレデレしたアメリカ映画ということ以外、とくに記憶はありませんでした。
1956年の公開ですから、すでに56年も前の映画で、最もアメリカが豊かだった時代ということなのかもしれません。ウィキペディアをみると主人公のエディ・デューチンはなんと実在のピアニストで、その生涯を描いた映画だということは恥ずかしながら今回初めて知りました。

あらためて感銘を受けたのは、この映画の実際のピアノ演奏をしているのがあのカーメン・キャバレロで、彼はクラシック出身のポピュラー音楽のピアニストですが、昔は何度か来日もしたし、まさにこの分野で一世を風靡した大ピアニストだったことをなつかしく思い出しました。

最近でこそ、さっぱり聴くこともなくなったキャバレロのピアノですが、久々にこの映画で彼の演奏を聴いて、その達者な、正真正銘のプロの演奏には舌を巻きました。指の確かさのみならず、その音楽は腰の座った確信に満ちあふれ、心地よいビート感や人の吐息のような部分まで表現できる歌い回しが実に見事。まさにピアノを自在に操って聴く者の感情を誘う歌心に溢れているし、同時にその華麗という他はないピアニズムにも感心してしまいました。

タイロン・パワーもたしかある程度ピアノが弾ける人で、実際に音は出していないようですが、曲に合わせてピアノを弾く姿や指先の動きを巧みに演じてみせたのは、やはりまったく弾けない俳優にはできない芸当だったと思います。

映画の作り自体は、もうこれ以上ないというベタベタのアメリカ映画で、その感性にはさすがに赤面することしばしばでしたが、きっと当時のアメリカ人はこういうものを理想的な愛情表現だと感じていたのだろうかと思います。

画面に出てきたピアノはボールドウィンが多かったものの、一部にはニューヨーク・スタインウェイも見かけることがありましたが、実際の音に聞こえるピアノが何だったのかはわかりません。
ただ、この当時のピアノ特有の、今では望むべくもない温かな太い響きには思わず引き込まれてしまい、こんなピアノを弾いてみたいという気になります。

今から見てヴィンテージともいえそうな時代には、ボールドウィンやメイソン&ハムリンなど、アメリカのピアノにも我々が思っている以上の素晴らしいピアノがあったのかもしれません。

今でもそんな豊かな感じのするピアノがアメリカには数多く残っているのかもしれません。

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