日増しに気温が上がっていくこの頃、この変化がどうも苦手です。
とくに日本では温度と湿度はセットのようにして両方上がっていくので、マロニエ君にとっては甚だしい二重苦となり、なんとなく気分までじりじり蒸発してしまうようです。
世の中には、冬が嫌いで温かくなると木々が芽を出すように元気増大していくひまわりみたいな人がいるものすが、マロニエ君はそれとは真逆の人間で、気温の上昇とともに次第にパワーを奪われていくようで、なんでもだらだらと億劫になっています。
仕事場に買ったノートパソコンも届いたのですが、すぐに使うものなのに初期設定さえも甚だ面倒だし、もう一台自分用に買った最新のマックも、とっくに届いているというのに、まだ箱さえ開けないまま物置に放り込んでいて、このままじゃ使わないうちに型遅れになりそうです。
いまここに書いたことでそれを思い出し、またまた暗澹たる気分になってきました。
こんな時期に内田百聞の阿呆列車を読んでいると、巨匠の味わい深い文章の力もあって、なまくら気分にいよいよ拍車がかかってくるようです。
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週末はあるピアニストが遊びに来てくださいました。
ピアニストが来られたら弾かないまま帰すマロニエ君ではありませんから、当然ピアノを弾いてもらいましたが、快くいろいろと聴かせていただきました。
ショパンをいくつかの他は、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスとまさに文字通りのドイツの三大Bがお並びになり、大いに楽しませてもらうことができました。
中でもブラームスでは、マロニエ君の楽譜の中から目敏くコンチェルトを見つけて、近ごろこの1番を弾いてみているとのことで、譜面を広げて少し弾いてもらいました。
これは個人的にも最も好きな協奏曲のひとつです。
ブラームスだけが持つ、仄かな影が差し込むような和声展開の美しには、思わず心が持って行かれるようです。
その後はさらに数名が合流して夕食会となりました。
ピアノは弾くだけでなく、それを基調としながら、あれこれとくだらないことまで楽しく語り合うのも大いなる楽しみのひとつです。
そのうちの一人は、最近より精密なタッチ調整をやってもらったとかで、結果はほぼ満足のいく状態になったということでしたが、ここまで来るにも優に一年以上かかっていますから、やはりピアノは根気よく「育てる」という認識を持って粘り強く接していかなければならない楽器だなあと思います。
この席には不在だった別の友人は、うらやましいことに現在フランス旅行中で、出発前からパリのピアノ工房に連絡を取ったりしている様子だったので、まかりまちがって戦前のプレイエルなんぞを買ってきやしないかとドキドキです。折からのユーロ安ですから、もしかして…。