ヴンダーの日本公演

2年前のショパンコンクールで第2位だったインゴルフ・ヴンダーの、今年4月の日本公演の模様が放送され、録画をようやく見ました。

紀尾井ホールでのリサイタルで、リストの超絶技巧練習曲から「夕べの調べ」、ショパンのピアノソナタ第3番とアンダンテ・スピアナートと華麗な大ポロネーズというものでした。

率直に云って、なんということもない、むしろ凡庸な、まるで手応えのない演奏でした。
普通はショパンコンクールで第2位という成績なら、好みはさて置くとしても、指のメカニックだけでも大変なものであはずですが、テンポもどこかふらついて腰が定まらず、ミスをどうこう云うつもりはないけれどもミスが多く、この人の大きくない器が見えてしまって、なんだか肩すかしをくらったような印象でした。
全般的に覇気がなく、楽器を鳴らし切ることもできていないのは、デリケートな音楽表現をやっているのとは全く別の事で、聴いていてだんだんに欲求不満が募りました。

音楽の完成度もさほど感じられず、彼が果たしてどのような芸術表現を目指しているのか、さっぱり不明でした。
見ようによっては、まるで軽くリハーサルでもやっているようで、こういう弾き方なら、ピアノもさぞ消耗しないだろうと思います。

この人はコンクールの時には聴衆に人気があったというような話を聞いた覚えがありましたが、このリサイタルを聴いた限りでは、到底そのような片鱗さえ感じられませんでしたし、むしろ惹きつけられるものがないことのほうを感じてしまいます。この人の聴き所がなへんにあるのか、わかる人には教えて欲しいものです。

見た感じは人の良さそうな青年で、映画「アマデウス」でモーツァルトに扮したトム・ハルスのような感じです。演奏しながら細かく表情を変化させながら、いかにもひとつひとつを表現し納得しながら演奏を進めているといった趣ですが、実際に出てくる音はあまりそういうふうには聞こえません。

たしかコンクールが終わって程なくして、上位入賞者達が揃って来日してガラコンサートのようなものがあり、その様子もTVで放送されましたが、このときヴンダーはコンチェルトではなく、幻想ポロネーズを弾いたものの、別にこれといった感銘も受けなかったことをこのブログにも書いたような記憶があります。
やはり第一印象というものは意外に正確で、それが覆ることは滅多にありませんね。

これで2位というのはちょっと承服できかねるところですが、聞くところでは彼はハラシェヴィッチ(1955年の優勝者でポーランドのピアノ界の大物のひとり)の弟子らしいので、そのあたりになにか影響があったのか、詳しいことはわかりませんが、コンクールには常に裏表があるようです。
直接の関連はないかもしれませんが、4位のボジャノフがえらく憤慨して表彰式に出なかったというのもなんとなくわかるような気がしました。

その点で、優勝したアブデーエワは通常のリサイタルではコンクール時よりもさらに見事な演奏を披露し、彼女が優勝したことはピアニストとしての潜在力の点からも、とりあえず正しかったのだと今更ながら思うところです。

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