CD漁り

久しぶりにタワーレコードに寄ってみましたが、ワゴンセールなどを物色せずに素通りすることはなかなか困難です。

今回もあれこれとセール品漁りをしたあげく、ついまた博打買いをしてしまいました。
「博打買い」とは、なんの情報も予備知識もないまま、まったく価値のわからないものを、専ら直感だけで購入してしまう事を自分でそう呼んでいます。

ひとつはユーリー・ボグダーノフ(1972年生まれ)によるショパンの2枚組で、ワルツ、バルカローレ、スケルツォ、ソナタ、ポロネーズ、即興曲、エチュード、ノクターン、バラード、マズルカといった、ショパンの作品様式をほぼずらりと取り揃えたような演奏が並んでいます。
曲目はいわゆる名曲集的なものではないものの、すべてが馴染みの作品ばかりで、ピアニストもまったくの未知の人であるほか、「Classical Records」という名の、これまで見たこともないロシアのレーベルで、表記もロシア語だったことが惹かれてしまった一因でした。
かつてのソヴィエト時代のメロディア・レーベルのような、鉄のカーテンの向こう側を覗くようなドキドキ感が蘇って、ちょっとそのロシア製のCDという怪しげなところについ引き寄せられてしまったようです。

調べてみると、ボグダーノフはモスクワ音楽院でタチアナ・ニコラーエワやミハイル・ヴォスクレセンスキーに師事したらしく、ロシアのピアニストにはよくあるタイプの経歴の持ち主のようです。

期待したわりには演奏は至って普通というか、むしろ凡庸といった方がいいかもしれないもので、ロシア的怪しさはさほどありませんでした。むしろロシア的だったのは数曲において途中のつぎはぎが下手なのか、しばしば微妙にピッチが変わるなど、予期せぬ意味での雑味のある点が「らしさ」と云えないこともありませんが、純粋に演奏という意味では、正直言って期待値を満たすものではありませんでした。

もうひとつは、19世紀末に生まれ20世紀に活躍したイギリスの作曲家、ベンジャミン・デイルとヨーク・ボーウェンのピアノ曲のCDですが、こちらはまさにアタリ!でした。
こういうことがあるから博打買いはやめられないのです。

20世紀の作曲家といっても無調の音楽ではなく、ロマン派やドビュッシーの流れをくむ中に独自の新しさが聞こえてくるという、いわば耳に受け容れやすい音楽で、ベンジャミン・デイルのピアノソナタは、決して重々しい作品ではないものの、途中に変奏曲を内包する演奏時間40分を超える大曲で、何度聴いても飽きの来ない佳作だと思いました。
この曲はヨーク・ボーウェンに献呈されているもので、いかにもこの二人の同国同業同時代人同士の信頼関係をあらわしているようでした。

後半はそのヨーク・ボーウェンの小組曲で、こちらは3曲で10分強の作品ですが、即興的なおもしろい個性の溢れる曲集で、これまた存分に楽しむことができました。

演奏は知られざる名曲をレパートリーにしながら独自の活動としている、これもイギリス人ピアニストのダニー・ドライヴァーで、その安定感のある正確で爽やかなテクニックと見通しのよい楽曲の把握力は特別な才能を感じさせるものです。
彼はほかにもヨーク・ボーウェンのソナタ集や、バラキレフの作品、はたまたC.P.E.バッハの作品集などを録音するなど、独自な活動をするピアニストのようでそれらも聴いてみたいものです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です