復元か新造か

つい先日、あるスタインウェイディーラーから送られてきたDMによると、1878年製の「The Curve」という名のニューヨークで製造されたスタインウェイのA型が、メーカー自身の手で修復されて販売されているというもので、なんとケースとフレーム以外の主要パーツはすべて新品に交換されている旨が記されています。

単純計算しても134年前のピアノというわけですが、修復というよりは骨組み以外は新規作り直しという感じで、楽器の機械的な耐久性という意味ではなんの心配もなく購入することができるということでしょう。
当然ながら、ボディやフレームにも新品と見紛うばかりの修復がされていると思われますので、旧き佳き時代のピアノとして見る者の目も楽しませるでしょうし、今やこのような選択肢もあるというのはなにやら夢があるような気になるものです。

たとえ世界屈指の老舗ブランドといえども、現今のピアノに使われる材質の低下、それに伴う音色の変化などに納得できない諸兄には、このようなヴェンテージピアノをメーカー自身がリニューアルすることによって、新品に準じるような品質で手にできるということ…一見そんな風にも思われますが、厳密にはその解釈の仕方は微妙なのかもしれません。

ともかくリニューアルの施工者がメーカー自身というのなら、一般論としての価値や作業に対する信頼も高いでしょうし、それでいて価格もハンブルクのA型新品より3割近く安いようですから、こういうピアノに魅力を感じる人にとっては朗報でしょう。

ただし、強いて言うなら、新しく取り替えられた響板やハンマーフェルトの質が、1878年当時と同じという事はあり得ず、少なくともその質的観点において、当時のものと同等級品であるかといえばそれは厳密には疑問です。枯れきったよれよれの響板が新しいものに交換されれば、差し当たり良い面はたくさんあるでしょうが、ではすべてがマルかといえば、事はそう簡単ではないようにも思います。

また作業の質や流儀にも今昔の違いがあるでしょうから、現代の工法に馴れた人の手で、どこまで当時の状態の忠実な再現ができるのだろうとも思います。仕上がった状態を、もし昔の職人が見たら納得するかどうか…。まあそういう意味合いも含めて、おおらかに解釈できる人のためのピアノと云うことになるのかもしれませんね。

やみくもに古いものは良くて新しいものはダメだと決めつけるつもりは毛頭ありませんが、おそらく19世紀後半であれば、良いピアノを作るための優れた木材などは、当時の社会は今とは較べるべくもない恵まれた時代だったことは確かです。

聞くところによれば、現在ドイツなどは環境保護の目的で森林伐採は厳しく制限され、ピアノ造りのための木の入手も思うにまかせないという状況だそうですが、そんな時代に新品より安く販売されるリニューアルピアノのために、オリジナルに匹敵する稀少材が響板に使われるとは考えにくいし、それはハンマーフェルトも同様だろうと思います。

さすれば、スペックの似た現代のエンジンを積んだクラシックカーのようなものだと思えばいいのかもしれません。そう割り切れば、パーツの精度などは上がっているはずで、もしかしたら部分的な性能ではオリジナルをむしろ凌ぐ可能性さえもあるでしょうね。
これはつまり、新旧のハイブリッドピアノと考えれば理解しやすい気がします。

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