ノリントンの世界

日曜朝のBSプレミアムのオーケストラライブには、このところ3週続けてロジャー・ノリントンがN響定期公演に登場しています。

曲目はお得意のベートーヴェンがほとんどですが、最後にはブラームスの2番(交響曲)もやっていました。
面白かったのは4月14日のNHKホールでの演奏会で、マルティン・ヘルムヒェン(ピアノ)、ヴェロニカ・エーベルレ(バイオリン)、石坂団十郎(チェロ)をソリストにしたベートーヴェンの三重協奏曲で、これはなかなかの演奏だったと思います。

マルティン・ヘルムヒェンはドイツの若手で、以前もたしかN響と皇帝を弾いていたことがありましたが、その時は気持ちばかりが先走っていささか独りよがりという感じでしたが、今回はピアノパートも軽いためかとても精気のある適切な演奏をしていましたし、ヴェロニカ・エーベルレはソリストの中心的な重しの役割という印象でした。
石坂団十郎は確かドイツ人とのハーフですが、まるで歌舞伎役者のようなその名前に恥じない、なかなかの美男ぶりで、なんだかステージ上に一人だけ俳優がいるようでした。

ノリントンの音楽はいわゆるピリオド奏法でテンポも遅めですが、どこか磊落で、彼なりの解釈と信念が通っており、マロニエ君の好みではありませんが、しかし確信に満ちた音楽というものは、それはそれで聴いていて心地よく安心感があるものです。

また、4月25日のサントリーでの演奏会では河村尚子をソリストに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番が演奏されましたが、これが実に見事な演奏で非常に満足でした。

正直言うと、マロニエ君はこれまで河村尚子さんの演奏にはあまり良い印象がなく、以前これもまた皇帝を演奏した折に、あまりに曲の性格にそぐわない自己満足的な演奏にがっかりして、それをこのブログに書いた覚えがありますが、それが今度の4番ではまるで別人でした。

まずなんと言っても感心したのは、ノリントンの演奏様式に則った、バランスの良い演奏で、ほとんどビブラートをしない古典的演奏スタイルによるオーケストラとのマッチングは素晴らしいものでした。しかも音楽には一貫性があって、呼吸も良く合っており、妙にもったいぶって自分を押し出そうとする以前の振る舞いはまったく影をひそめて、いかにも音楽の流れを第一に置いた姿勢は立派だったと思います。

おそらくはノリントンという大家の監視が厳しく効いていて、勝手を許さなかったということもあったのでしょうし、事前の打ち合わせと練習もよほど尽くされた結果だと思いますが、だからこそ、先のトリプルコンチェルト同様に聴く側が違和感なく音楽に身を委ねることができたのだろうと思われます。
そういう意味では、音楽上の民主主義的な指揮者は結果的にダメな場合が多いし、近ごろは練習不足の本番が多すぎるようです。

河村さんはベートーヴェンの偉大な、しかも繊細優美なこの作品の大半をノンレガートを多用して極めて美しく、かつ熱情をもって弾ききり、こういう演奏をやってのける能力があったのかと、一気にこのピアニストを見る目が変わりました。

印象的だったのは、上記いずれの演奏会でも、ピアノは大屋根を外して、オーケストラの中に縦に差し込んで、ノリントン氏はピアノのお尻ちかくに立って指揮をしていましたが、まさに彼の音楽世界にオケもソリストも一体となって参加協力しているのは好ましい印象でした。

さらにおやっと思ったのは、いずれもピアノはスタインウェイでしたが、あきらかに発音が古典的な、どこかピリオド楽器を思わせる不思議な調整だったことで、そこまで徹底してノリントンの音楽的趣向が貫かれているのはすごいもんだと思いました。

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