全国的に水の被害が出ていますが、北部九州も日曜日は明け方から夕方まで滅多にないほどの猛烈な雨でした。
雨足は終始強く、おまけに雨間というものがまるでなく、よくぞ上空にはこれだけの雨があるもんだと感心するほど、降って、降って、降りまくりでした。
深夜のニュースによれば九州の多いところでは300ミリの雨だったとか。
そんな日に、チケットを買っていたものだから九響のコンサートを聴くために宗像まで車で往復するという、マロニエ君のような怠け者にしてみれば、とてつもない行動をした一日でした。
朝からただ事ではない激しい雨模様で、これはよほど断念しようかと何度も思ってみたものの、この日登場する白石光隆さんの演奏を聴くことを以前から楽しみにしていたことでもあるし、彼はそれほどメジャーなピアニストでもないため、今回を逃すと次はいつまた聴けるかわからないという思いもあって、手許にはチケットがあるし、思い切って車のエンジンをかけました。
福岡市の中心部から会場の宗像ユリックスまでは距離にすれば30kmほどですが、普段より早めにお昼を済ませて、15時の開演に間に合うよう到着するにはかなり厳しい時間的スケジュールになります。
なにしろこの悪天候である上に、途中には新たな渋滞ポイントとして予想されるイケアと新規オープンしたイオンモールがあるので、遠回りになることを承知で高速で迂回するなどしながら、なんとか開演20分前に会場入りすることができたものの、出発から到着までの一時間半近く、一瞬も衰えることのない強い雨足には参りました。オーディオの音も邪魔になるほどの、ルーフやフロントガラスを雨滴が叩きつけるバシャバシャいう音、路面から水を巻き上げる音、せわしいワイパーの動きだけでもいいかげん疲れました。
濡れた合羽や傘をまとめつつ席について開演を待ちますが、こんなお天気にもかかわらずほとんど満席に近いのは驚きでした。
曲目はバッハ=レーガーの「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」に始まり、続いてベートーヴェンの「皇帝」で、白石さんの登場となります。
これまでCDでのベートーヴェンのソナタで感嘆していたほか、TVでもトランペットリサイタルのピアノなどで見ていましたが、とても品の良い丁寧な演奏であるし、やはり上手いというのが印象的でした。
ただし、ご本人の性格的なところもあると思いますが、どちらかというと穏やかなキッチリタイプの演奏で、個人的には、そこへもう一押しの迫りがあるならさらに好ましいように感じました。
でも、自己顕示欲のない、とてもきれいなピアノでした。
後半は同じくベートーヴェンの「運命」でしたが、久々に聴いた九響はやっぱり九響でした。
迫力はあるけれども、全体に粗さが目立ち、とりわけ弦の音色にはなんとなく細かい砂粒でも噛み込んだようなざらつきがあって、やわらかさ、艶やかさに欠けており、いささかうるさい感じに聞こえました。
アンサンブルにもより高度なクオリティが欲しいところですが、ここから先のもう一段二段というのが難しいところなのでしょう。
ピアノは新しいスタインウェイで、この日の悪天候のせいもあるとは思いたいものですが、鳴りが芳しくなく、白石さんの敏腕をもってしてもピアノの音はしばしばオーケストラに掻き消され、まったく精彩がないのは聴いていてなんとももどかしいような気分でした。
終演後はロビーで白石さんのサイン会がある由で、新しくリリースされたハンマークラヴィーアなどのアルバムが目を惹きましたが、そこに白石さんの姿はまだなく時間がかかりそうでした。外を見るとさらに激しい雨足で、帰路のことを考えるとなんだか気が急いて、結果的に後ろ髪を引かれる思いで傘を開き、横殴りの雨の中を駐車場へ向かいました。
ともかく無事に帰宅できてやれやれというところですが、今思えば、やっぱりCDを買って少し待ってでもサインしてもらえばよかったなあ…と思っているところです。