家内工業の音

ピアノの音で、時おり感じることですが、それは良し悪しの問題ではなしに、2つに大別できるのでは?と思うことがあります。
上手く言えませんが、きっちり計算されたメーカーの音と、より感覚的でアバウトさも残す家内工業の音があるということになるでしょうか。

純粋な音の良し悪しとは別に、たとえレギュラー品でもある一定の計算が尽くされたメーカーの音を持ったピアノがある一方で、どんなに素晴らしいとされるものでも、よしんばそれが高額な高級ピアノであっても、家内工業の音というのがあるように思います。これはちょっと聴くぶんにはまことに凛とした美しい音だったりしますが、残念なことにしたたかさというものがなく、いざここ一発というときの強靱さや、トータルな音響として形にならないピアノがあるようにも感じます。

車の改造などに例えると、専門ショップなどの手で個人レベルのチューニングされたものは、パッと目は局部的に効果らしいものがあらわれたりもしますが、トータル的に見た場合、深いところでのバランスや挙動でおかしな事になっていたり、性能に偏りが出たりして、本当に完成された効果を上げるのは、それはもう生半可なことではありません。

その点、メーカーが手がける設計や変更は、おそろしく時間をかけ、いくつもの異なるパーツやセッティングを試して、テストと改良をこれでもかと繰り返したあげくのものですから、その結果は膨大な客観的データやテストなどの裏付けの上にきちんと成り立っているものです。
すなわち街のショップのパーツ交換とは、どだいやっていることのレベルが違うというわけです。

同じことがピアノの音にも感じることがあり、どれほど最良の素材で丹誠込めて作り上げられたピアノであっても、家内工業規模のピアノには手作り的な温もりはあるものの、どこか未解決の要素を感じたり、全体として一貫性に欠けていたりします。

その点でいうと、大メーカーのピアノはそれなりのものでもある種のまとまりというか完成度というものがあり、ある程度、客観的な問題点もクリアされているので、そういう意味では安心していられる面がありますね。
とりわけ観賞を目的としたコンサートや録音ではそれが顕著になります。

大メーカーのピアノは、広い空間での音響特性や各音域のパワーや音色のバランス、強弱のコントラスト、楽曲とのマッチングなど、あらゆる項目が繰り返し厳しくチェックされていると思われますし、問題があれば大がかりな改修が入るでしょう。そのためには多くの有能なスタッフや高額な設備なども欠かせません。必然的に試作品も何台も作ることになりますが、このへんが工房レベルのメーカーでは、どんなに志は高くてもなかなかできないことだと思われます。

家内工業のピアノは材料や作り込みは素晴らしいけれども、弱点は完成度のような気がします。
素人がパラパラっと弾いた程度なら、たとえば中音から次高音にかけてなど、なんとも麗しい上品な音がして思わず感銘を覚えたりしますが、プロのピアニストが本気で弾いたら、思いもよらない弱点が露見することも少なくありません。
プロの演奏には、表現の幅や多様性に対する適応力、重層的な響きにおける崩れのない立体感などが求められますが、そういう場面でどうしても破綻したり腰砕けになってしまうことがあり、それを徹底して調査して、場数を踏んで補強してくるのが大メーカーなのかもしれません。

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