氷ドロボウ

ちょっとした事情と流れから、福岡市の郊外にあるスーパーで買い物をして帰ることになりました。

自宅まではやや距離があり、この季節なので、レジを通ったあとサービスで備え付けられている氷をビニール袋に入れようと製氷器の前に行くと、そこには身をかがめて氷を袋にせっせと詰めている男性がいました。
中年のごくごく普通の、いたって善良な感じの男性です。

繰り返しスコップを氷に差し込んでは、かなりの量を袋に詰め込んでいるようで、ちょっと違和感がありましたがやがて終わったので、その後に続いてマロニエ君も氷を袋に入れますが、買ったものが傷まないための保冷が目的ですから、その量もたかがしれています。

適当に入れ終わって、製氷器の扉を閉めようとすると、さっきの男性が近づいてきて「あ、いいですよ。」と言うので、なにかと思ったら、またさっきと同じように氷をザクザク取り始めました。

マロニエ君はすぐ脇のテーブルで買ったモノを持参した袋に入れていると、その男性は目の前に戻ってきて、同じテーブルに置かれた発砲スチロールの大きな箱の中へビニール袋へ詰めた氷を入れていますが、なんとその中にはズラリと同じ状態の氷ばかりが入っています。そして、またもピッと袋を一枚とって製氷器の前に戻り、繰り返し氷を袋へせっせと掻き込んでいます。

その製氷器の上には特大サイズの警告の紙が何枚も貼られていて、「クーラーボックスなどで氷を持ち帰らないように」といった類の注意書きが嫌でも目に入るよう大書してあるのですが、その男性の態度はまったくそんなことは意に介する風でもなく、むしろ淡々とした調子で、氷を袋に詰めて上部を縛っては箱の中へとどんどん投入していきます。

しかもその男性の周辺には、ここで買い物をしたらしい形跡はなにひとつなく、来店したのは氷を持ち去る事だけが目的というのがしだいに明らかになってきました。
こういう不逞の輩がいるから店のほうでも困ってこんな派手な貼り紙をしているのだと思いますが、そんなことはまるで知ったことではないという態度で、ひたすら氷を発砲スチロールの箱の中へ移す作業だけが続きます。

やがてその箱は蓋が閉まらないほどの氷であふれ、もはやこれで終わりと思いきや、今度は目の前の閉鎖中のレジに悠然と向かい、そこに置かれている店名が印刷されたレジ袋の大きいのをサッと取ってきて、今度はそっちにビニール袋入りの氷を入れ始めました。

その態度たるや、なんの悪びれたところもなく、製氷器の前ではときどき他のお客さんに「どうぞ」などとわざとらしく身をよけて順番をゆずったりしながら、あくまで悠然と氷の盗み出し作業に専念しており、その慣れた感じからしても、到底これが初めてではない常習犯であろうと思われました。

店の氷を大量に盗んでいることに加えて、そのナメたようなふてぶてしい態度に、すでにこちらの心中は穏やかであろうはずもなく、気分は不快感でムカムカしてくる始末です。
…とはいうものの、今どき本人に直接注意する勇気もないし、いきなり逆ギレされちゃ敵いません。

しかし、このまま捨て置くのも業腹なので、店を出るとき、レジの店員さんに「氷泥棒がいますよ、ものすごい量を今持ち去ろうとしていますよ。」と伝えました。
店員さんは目が点になって、ひとこと「ありがとうございます…」といったきりマロニエ君は店を出ました。その店員さんはすぐにレジを離れて動き始めたようでしたが、さてそのあとどうなったかまでは見届けませんでした。

それにしても、あんなに大量の氷を盗んでいったい何にするのだろうと思いましたが、おそらくはこれから釣りにでも行くのだろうとしか思えませんでした。
そこは海がわりに近いのです。

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