この夏、北九州市黒崎に新しくオープンした北九州市立ひびしんホールに行きました。
ここには3台の異なるメーカーのコンサートグランドが納入されたようで、7月のオープンに続き一連のピアノ開きのためのコンサートがそれぞれおこなわれ、トップを小曽根真さんがヤマハCFXを、次が小山実稚恵さんでスタインウェイDを、そして今回は最後で及川浩治さんがカワイの新機種EX-Lをお披露目されました。
以下、簡単に感じたところです。
【ホール】大ホールは、今どきのコンサートにちょうど良い800人強のサイズですが、すぐ近く(およそ3kmぐらい?)に同規模の、こちらも「北九州市立」の響ホールがあるにもかかわらず、当節のような景気の低迷とコンサート不況の続く中で、何故いま、このようなホールがもうひとつできたのか、その真相はよくわかりません。
それはそれとして、久しぶりに新しいホールに行くのは興味津々というところでしたが、率直に言って、ちょっと期待はずれなものでした。
その建物は、残念なほうの意味でおそろしく今風で、内も外も、ただパーツを組み上げただけのような無味乾燥なもの。どこをどう見渡しても、低コストに徹したという印象ばかりが目につき、ホールに求める文化的な雰囲気とか有難味のようなものがまったくありません。
その点、ずっしりと作られている響ホールは、何年経っていようが、まるで格が違います。
ホール内にはロビーらしきものもなく、ちょっとリッチな公民館といった風情だと云ったほうが話は早いかもしれません。ホールの内装は木の趣を凝らしたというところだとは思いますが、まるで竹ひごで編んだ虫籠のようで、そのモチーフがステージ上の反響板にまで連続して続くため、大きな虫籠の中央にポンとピアノが置いてあるようで、マロニエ君の目にはちょっと奇異に映りました。
コンサートというよりも、どことなくホタルや浴衣なんかが似合いそうな感じで、ホームページの写真で見るのと、実際に現場で見るそれは、相当イメージが異なるものだというのも痛感。
響きは、取り立てて変な癖やストレスもなく、それなりに素直でよかったとは思いましたし、新しい建物は空調などの効きがよく、その点はこの季節でもあり快適でした。
【ピアノ】カワイのコンサートグランドがシゲルカワイの名を返上し、再びKAWAIを名乗ることになった新機種が今回このホールに納入されたEX-Lです。
それを証明するように、サイドのロゴは鍵盤蓋と同様のがっちりとした書体でシンプルに「KAWAI」となっていますが、以前のいささか安っぽい装飾文字を思い出すと、ようやく本来あるべき姿に落ち着いたようで、この会社の良識的判断にホッとした思いです。
さて肝心の音は、かなりの期待を込めていたのですが、マロニエ君の耳には、従来型に較べてなんら進歩の後がないものでしかなく、これまでとまったく同じようにしか感じられなかったことは甚だ残念でした。
基本的な音色が暗く(重厚とは違う)、音にザラつきがあるところまで、すべてが引き継がれていて変化らしきものが何も感じられませんでした。
とくに中音域でそれが顕著で、ピアノの個性が決まるともいうべきこの大事な音域が、なんの色気も麗しさもない、濁った水のような音しか出てこないのはどうしてだろうと思います。
それに対して、低音はやや鈍さはあるものの、カワイらしい響きの豊かさとパワーがあり、せめてこの点は評価したいところです。
中音域を中心として、もっと澄んだ音、艶のあるふくよかな音が出たら、格段に良いピアノになると思うのですが、メーカーは不思議なほどそこには目を向けないようです。ちなみに、音の色艶とか美しさというのは、そのピアノのキャラクターに合わない整音をして、耳障りな音にすることとはまったく違うもので、やはり根本的にボディの問題だろうと思われます。
【ピアニスト】については…やめておきます。