調律師という言葉

家庭のピアノにおけるピアノの調整について少し補足を。

いまさらですが、ピアノの健康管理に欠かせないのは、技術者による入念な調律・整調・整音の各作業、およびオーナーによるピアノを置く場所の温湿度管理という2つが大きいと思われます。

この際、調律を何年もしないような人は論外として、一般的にピアノに必要なケアといえば年一回の調律だと思い込んでいる人は少なくありませんし、これが大半だろうと思います。
したがって多くのピアノが本格的な整調・整音などの作業を受けないないまま、長年に渡って使われて、やがて消耗していくようです。

この作業がおこなわれないのは、決して技術者の怠慢というわけではありません。
人によっては調律だけを短時間で済ませて、他のことは一切手出しをしないで、さっさと帰ってしまう儲け主義の方もあるとは聞きますが、マロニエ君の知る範囲でこの手の方は皆無で、みなさんピアノに対する理想理念をお持ちの良心的かつ強い技術者魂のある方ばかりです。

整調や整音が正しく理想的におこなわれない理由は、ひとことで言うと、その必要性がピアノの持ち主にほとんど認識されていない点にあると思います。極端な話、これらをまともにやろうとすれば、調律どころではない時間と手間がかかり、料金もそれに応じたものになるので、とても現実的に浸透しないのでしょう。

多くのピアノユーザーの認識は、調律師さんにきてもらってやってもらうのは文字通りの「調律」なのであって、それ以外の調整なんて、ついでにサービスでちょこちょこっとやってもらうもの…ぐらいなものです。
だから調律師さんサイドでも、要請もない、調律以上に大変な仕事をすることはできず、ましてやそのために調律代以外の技術料を請求することもできないというジレンマがあると思われます。
いっそ明確な故障とかなら別ですが、ピアノは少々タッチに問題があっても弾けないということはほとんどなく、整音に関しても同様の範疇にあるので、時間的にもコスト的にも、なかなか仕事として成り立たないというのが現実だろうと思います。

そもそも、まず一番いけないのは「調律師」という言葉ではないでしょうか。
この名称では、あたかも調律だけをする人というイメージで、はじめから仕事内容を規定してしまっているように思います。つまり調律師という言葉の概念が先行して、本来の正しい仕事に制限を与えてしまったということかもしれません。

かくいうマロニエ君も、慣習にならってつい調律師さんと言ったり書いたりしていますが、やはり本来は「ピアノ技術者」もしくは、もうちょっと今風にいうなら「ピアノドクター」などでなくてはいけないような気がします。

英語ではTunerというようですが、そこにはきっと「調律」にとどまらない、もっと広義の意味が含まれているような気がするのですが…。

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