ノラや2

動物好きにとって、自分で飼って生活を共にしている動物というのは、まさに家族同様の存在で、ときにその存在の大切さは人間以上のものにさえなってしまうこともないことではありません。

お隣の犬猫ハウスから猫がいなくなったという必死な捜索の電話があってからしばらくすると、今度は新聞紙面で、市内の方のビーグル犬がいなくなったとのことで、写真付きの捜索の広告が出ているのを見て思わず胸が塞がりました。

興味のない人からすれば、たかだか犬猫にそこまで必死になることを、愚かで馬鹿らしいことのように感じられるかもしれませんが、飼い主にしてみれば、それは家族を失うことに匹敵するような出来事で、さぞかし沈痛な毎日を送っておられるだろうと思います。

この新聞広告というところから、また内田百聞の「ノラや」を思い出したわけですが、高い新聞掲載料を払ってでもこのような広告を出した時点で、すでにかなりの時間が経過しているのでしょうし、八方手を尽くした挙げ句の苦渋の決断だろうと思われます。
おそらくは、めでたく見つかって飼い主のもとに戻ってくる可能性は極めて低いとマロニエ君は内心思ってしまい、それがまたいよいよお気の毒なところです。

すでに、この新聞広告は2度、目にしていて飼い主の方の悲痛な心の裡が忍ばれます。
なんでも、ある女性がこの犬を連れ去るところを見たという目撃証言があるのだそうで、写真を見てもなかなか器量好しのビーグルでしたので、そういう証言があるところをみると、心ない人によって連れ去られたのだろうとも想像します。

この広告が「犯人」の良心に訴えるものがあって、もとの飼い主へ返そうという気分になってくれたらそれに越したことはないのですが、なかなかそうはならないだろうと思われます。
相手が動物とはいえ「誘拐」もしくは「盗み」という悪事をはたらいておいて、いまさら名乗り出るのは引っ込みがつかないという心理があるでしょうし、動物は飼い始めるとじきに愛情愛着がわいてきますから、エゴであっても手放すこともできなくなるという事情があるだろうと思います。

警察に届けても、犬猫は飼い主にとってはどんなに家族同様でも、法的にはモノとしか扱ってもらえないのだそうで、そこがまた悲しいところです。

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