筒型スピーカーは、構造そのものでいうと至ってシンプルです。
塩ビ、硬質パルプ、アクリル、アルミなどから管の素材を選び、直径が10cm前後、長さ1mほどの管を垂直に立てて、その上に直径わずか8cmの小さなフルレンジスピーカーを取りつけというもの。
ただし、そのフルレンジスピーカーの背後には「仮想グランド」という名の仕掛けがあり、大半の人は寸切りボルトという建築資材や小さめの鉄アレイなどを流用し、いろんな工夫の上にこれを取り付けて管の中にこの一式を忍ばせます。これだけでも相当の重さがあるのですが、さらに重量を増すためにここへ大きなナットをいくつもとりつけることで音や響きの骨格をつくっていくようです。
それにしても直径わずか8cmのスピーカーというものは、普通のスピーカーを見慣れた目には、ほとんど冗談としか思えないほど小さく、ツイーター(高音用スピーカー)のようにしか見えないような心もとないサイズです。ところが、上述の仮想グランドなどと組み合わせることによって、これがズッシリとした低音からきらめく高音まで、文字通りのフルレンジを賄うスピーカーとしてその能力を遺憾なく発揮することにことになるのですから、まずこの点に驚かされます。
もし本当に、こんな小さなスピーカーひとつで事足りるのなら、これまでいろいろと目にしてきた、あの東西の横綱が鎮座したような高級家具調のあれは何だったのだろうかとも思います。
さて、構造は簡単でも、問題の音造りともなると、これはとても容易なことではありません。
音や響きのために様々な試行錯誤に着手するわけですが、なにぶんにもこちらは素人で何の知識も経験もないときているのですから、いかにも無謀な挑戦というわけです。
本当にオーディオに詳しい人はスピーカーユニットでまで手を加えてあれこれの特性を引き出したり、逆に封じ込めたりするようですが、マロニエ君などはとても手の及ぶ事ではないので、とりあえず管の中の吸音対策がチューニング作業のメインとなります。
今回マロニエ君が使用するのはアルミ管であることは何度か書きましたが、このアルミ管には特殊な加工などを施さない限り、アルミ独特の鳴きというのがあるらしく、それははじめの段階で自分の耳でもイヤというほど確認し、まずはこれを押さえ込むことから始めなくてはいけないことを痛感します。
ところがネット情報によると、このあたりも作る人の考えに左右され、中にはまったく吸音無しで音を作っていくという猛者もいるようですし、吸音するにしてもその素材は、何種類かの定番素材はあるものの、これが絶対というのものはないようです。
これがマロニエ君の場合の悲劇の始まりで、まずはこの管の内側の吸音材を何にするかで、3日に一度はホームセンターに通い、あれこれの素材を買ってきては試すことになりました。
驚くべきは、管の内側の吸音材を貼ると劇的に音が変わり、しかもそれは一気に音楽的なものへと近づいてみたりするので、そうなるとこちらの作業熱も俄然ヒートアップしてきます。
ところが、しばらくすると良くなったはずの音に疑問が出てきます。より詳しくいうなら、耳が鍛えられて、そこに含まれる欠点が聞こえるようになってくるといったほうが正確かもしれません。
そうなると、とてもそれでは満足できなくなり、せっかく取りつけた吸音材を惜しげもなく全部取っ払って、また別のものに交換するという、初心者のクセに分相応の満足を知らぬマニアックな世界に突入するわけです。
こうなるとコストも度外視とは云わないまでも、ムダにつぐムダの連続です。
あとになって袋一杯捨ててしまったフェルトの山を、やっぱり取っておけばよかったなんて何度も思いましたが、これが開発コストというものだ!などと自分を納得させているところです。