偏見

ネット上にはいろんな質問や相談事を受け付けるところがあり、ピアノのことも結構取り上げられています。随時さまざまな回答者が登場しては思い思いの持論を展開していて、それは読む側も楽しいものです。

面白い質問&回答がたくさんありますが、そのうちのひとつに、スタインウェイの一番小さなグランドとヤマハのSシリーズだったらどちらを目標(購入するための)にすべきかという相談がありました。

この両者、価格はかなり違っていますが、スタインウェイでは最小モデルに対して、片やヤマハのプレミアムシリーズであり、サイズでいうと中型というところで、総合的見地からどっちがいいかというわけでしょう。

多くの回答者からさまざまな書き込みがあり、それを読んでいると面白いことがたくさん書いてあるのですが、そんな中に、この手の回答でよく目にする、いかにも正論のような論調ではあるけれども、ちょっと首を捻りたくなる主張があり、それはほかでもときどき見かけるお説です。

曰く、ピアノで最も大事なことは調整の問題であって、とくに調整如何によってピアノはどうにでも変わるのであるから、従ってブランドに頼ってはいけないという、とりあえず本質を突いたかのような意見です。
管理と調整がいかに大切であるかは、むろんマロニエ君も日頃から痛感していることで、調整の巧拙はいわばピアノの生殺与奪の権を握っているといっても過言ではないと思います。

ところが、この手の質問の回答者の多くに見られる傾向は、スタインウェイではなぜか調整は悪いであろうという予断と偏見があり、そこへ「ヤマハでも丁寧に調整されたものはじゅうぶん素晴らしい」のであって、従って問題はメーカーではない!という論理を展開される片がいらっしゃいます。
さらには「調子のいいヤマハは不調のスタインウェイを凌ぐ」的な発言もみられますが、調整の良否は個々の楽器の状態にすぎず、こういう較べ方はちょっとフェアでない気がします。

不可解なのはどうして同じコンディションでの比較をしないのかということです。
大事な点はそれぞれ理想的に調整されたスタインウェイとヤマハ(機種はともかく)を比較して、果たしてどちらがよいかという話になるべきで、不調のスタインウェイを基準として、だからそれを欲しがるのは名前だけが頼りのブランド指向では?…などと言ってもナンセンスだと思うのです。

調整はどんなピアノでも例外なく必要なものであるのは論を待ちません。
それぞれのメーカーのピアノが最も理想的な調整を受けて、その持てる能力を十全に発揮できている状態で比較したときに、果たしてどちらが弾く人にとって価格を含めた総合的価値があるかという点で冷静な判断をすべきだと思います。

スタインウェイというのは圧倒的なブランド力があるためか、どうかすると必要以上に叩かれるという一面はあるように思います。たしかにマロニエ君も、いつもトップに君臨して、それが当然みたいな在り方というのは人でも物でも嫌いで、ある種の反発さえ覚えますが、それでもその実力がいかなるのものかという点はやはり固定観念や偏見抜きに、真価を正しく理解する必要が大いにあると思います。

偏見を取り払って公正な判断ができたときにようやく見えてくるものこそが個性であり好みでしょう。
それがつまりは自分との相性だと思うのですが。

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