魔性の音造り2

どんな世界でも共通することだろうと思いますが、基本を正しく理解して、そこそこ間違っていない事をやってさえいれば、ある程度のレベル達成までは比較的順調にいくものです。さらにそこに磨きをかけて洗練を目指すことも、手が慣れてくれば、おおよその要領もわかって、これもできないことじゃない。

ところが…。
さらにその上のあと一歩か二歩をよじ登ろうとすると、これがどうにも手に負えない鉄壁であることを思い知らされ、まずだいたいはそのあたりで挫折を味わうようになるというのが常道的な図式ではないでしょうか。
つまりその最後のたかだか一歩か二歩に到達することは、実はこれまでの全行程よりも困難だということでもあるようです。ハイエンドクラスの高級品が法外なようなプライスを堂々とぶら下げることができるのも、つまりはこの最後の鉄壁を凌駕している事への勲章みたいなものでしょうね。

このスピーカー作りで学んだことのひとつもまさにそこで、普通で云うなら、自分で云うのも憚られますけれども、なにしろ第1作にしてはそこそこのものは出来ていると思います。
試しに、ある夜、我が家にやってきた友人に聴かせたらこっちが意外なほど感激してくれて、空間を満たす音楽の奔流にただただ圧倒されているようでした。

黙って聴いて、いきなり変な質問をされました。
「もうひとつ同じものを作れといわれたら作れるか?」と。作り方も材料も全部わかっているので「そりゃあもちろんできるよ」というと、あまり音楽に関心のない彼が、「ぜひ自分にも作って欲しい」と嬉しい事を云ってくれました。

彼はマロニエ君が夏頃からスピーカー作りに尋常ならざる意気込みで入れ込んでいるのをそれとなく知っていましたし、性格的にもやる以上はそこそこ物事を追求するタイプなので、それなりのものは出来ているだろうぐらいには思っていたようでした。
ただ、それでもしょせんは素人の手作りなので、要は「手作りケーキの域」は出ないだろうと思っていたらしいのですが、彼の耳に聞こえてきたものは予想を覆すものだったようで、本当に驚いてくれて、こっちがびっくりでした(マロニエ君自身は手作りケーキの域だと自認していますが)。
おまけに自分にも作って欲しいとまで云ってくれたのはまったく望外のことでした。

したがって、そういうふうに感激してもらえたことは嬉しいことですが、それはそれ。マロニエ君としてはまだ自分が納得していないので「よしわかった」と友人のためにもう一台作るわけにもいきません。

そうはいっても、もはやマロニエ君のシロウト作業では限界に近づいているというのもわかっていますが、あとやってみたいことはいくつか残っていますので、やはりそれをこれから先、やってみないことには終止符は打てないようです。

毎夜、部屋の中央に佇むスピーカーを見たらいじりたくなるけれど、同時にもう触るのもこりごりという気分になるときがあるのも事実で、もはや自分がどうしたいのか自分でわからないときもあるのが事実。
気が付いてみると、このスピーカー作りおかげで、このふた月以上というもの、ほとんどピアノも弾いていませんでした。それも当然で、これだけスピーカー作り時間を費やせばピアノなんて弾く時間はまったくないのは当たり前なわけです。

先日、久しぶりにちょっとピアノの前に座って何だったか忘れましたが弾いてみたら、驚くほど指が動かなくなっていることに我ながら愕然としました。
ま、別にそれでどうなったって構やしません。自分が愉快に過ごしていられればそれが一番ですし、このスピーカー作りはマロニエ君にとっては予想に反して、いろんな意味で貴重な体験となり、勉強になったことは紛れもない事実ですから、あれこれお試しの連続でコストも相当かかりましたが、自分にとってムダではなかったと思っています。

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