塩鮭のゲット方法

行きつけのスーパーはいくつかあるものの、マロニエ君が行く時間帯は主に夜が多く、たまに時間や出先の都合などで昼間に行くことがあります。
同じスーパーでも、昼と夜とで大違いなのは生鮮品で、とりわけ鮮魚売り場などは昼間だと全く別の店のようなすごい活気があるのに驚かされます。

甚だ所帯じみた話題で恐縮ですが、あるスーパーの塩鮭はとても品物が良く、美味しいのでマロニエ君のお気に入りで、行けば必ず買ってくるようにしています。
昨日、たまたま昼間ここへ行けたので、塩鮭を買うべく売り場に行くと、あるある、美味しそうな甘塩の切り身が山のように盛られており、手前には厚手のビニール袋が備え付けてあります。
それへ専用のトングを使って各自必要量を袋に入れてレジで精算するという、ごくごくありふれたシステムです。

すぐ脇には、同じものがパック詰めされたものもありますが、自分で一切れずつ選んだほうがより好みの部位をチョイスできるという利点もあり、マロニエ君としては、あまり鮭のお腹に近い方の脂の強いところは避けたいので、いつも自分で選んで買うことにしています。

この日、その売り場に行ったときには誰もいませんでしたから、ビニール袋を片手にあれこれと選んでいると、ほどなく一人の女性がやってきてしばらくじっとこちらの様子を見ていましたが、ある瞬間から決断がついたのか、自分もとばかりに袋を取って切り身をあれこれと漁り始めました。

すると、さらにべつ方向からもうひとりおばさんが現れて、マロニエ君の横にぴったりくっつくようにしながらこの光景を凝視していますが、まだ詰め込み作業が済んでいないこちらの身体の前に腕をよじるように、強引に手を伸ばしてきて、ビニール袋をもぎ取るように一枚取りました。
内心「すぐ済むからちょっと待ってよ…」と思いましたが、それができないようです。

さっそくにも自分も手を出したかったのでしょうが、二つあるこの売り場専用のトングはいずれも「使用中」のため、そのおばさんは袋の中に手を突っ込んで切り身を掴んで、さっと袋を裏返すことでゲットしています。
と、そんなことをしているうちに、さらにもう一人!おばさんが横から現れましたが、この人はほとんど人を押しのけるようにしてなにがなんでもビニール袋をむしり取り、な、なんと素手!で塩鮭を鷲づかみにして二三切れ袋に放り込みました。

こうなふうに文章で説明すると、マロニエ君がよほどぐずぐずしていたように取られるかもしれませんが、決してそんなことはなく、できるだけサッサとやっていたつもりですが、なにしろこのたぐいのパワーは凄まじいものがあって、いったん始まってしまうと、あっという間のことでとても敵いません。
もともと誰も見向きもしていない売り場だったのに、誰かが袋に詰めしたりしていると、たちまち人が寄ってくるという一種の人の心理も働いているようにも思います。

それにしても、マロニエ君もスーパーではいろんなものを目撃していますけれども、生臭いむき出しの塩鮭の切り身をまさか素手で掴むおばさんというのは初めてお目に掛かりました。悪いとは思いましたが、あんまりびっくりしたのでその売り場を離れる際、思わず顔を見てしまいましたが、ごく普通の身なりで、頭にはきれいな帽子まで被っていて、とてもそんなワイルドなことをしそうな御方には見えませんでした。
あのあと、生の塩鮭を掴んだ右手はどうしたのかと、ずっと考えてしまいました。

なんにしても現代はまぎれもない競争社会。
たかだか塩鮭の切り身ひとつ買うにも、時として「戦い」の様相を帯びるのだということであります。

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