手作りスピーカーで余談をひとつ。
スピーカーに不可欠の吸音材に使う素材はいろいろあるようですが、そのうちの定番のひとつが「綿(わた)」であることは、恥ずかしながら今年になって知りました。
これには100%ウールのものから、一定量化繊の混じっているものまでいろいろあり、自作オーディオの専門店でも扱っているようで、ネットで購入も可能ですが、マロニエ君は量なども実物で確認したかったので、市内のふとん店に問い合わせてみることにしました。
しかし、今どきはふとん店そのものが昔に較べてずいぶん少なくなっているようでした。
さらには中の綿だけを小売りしているような本格的な専門店となると、なかなかそうざらにはありません。今は生活用品ならなんでもスーパーなどで簡単手軽に安く買えてしまう時代ですから、それもそうだろうと思います。
そこでふっと思い出したのが、ときどき通る道沿いに、派手ではないがちょっと古い感じの大きめのふとん店があったのを思い出して、そこに問い合わせをしてみたら、さすがというべきかちゃんと商品としての取扱いがありました。
オーディオ店同様に、100%ウールをはじめ化繊の混合など数種類そろっているようです。
我が家からもそう遠くない場所なので、さっそく行ってみると、外から見るより店内は遙かに立派で、これには思いがけず驚きました。それも今風のピカピカした感じの立派さではなく、建物などは結構古くはなっているけれども、昔ながらの商売を守り続けているといったガッチリした店内で、置かれている布団のセットなども値段もそれなりだけども法外なものでもなく、いわゆる特別高級な何々というのではなくて、きちんとしたものを正当な価格で普通に売っているというもので、まずその点も近ごろでは却って懐かしく新鮮でした。
さらには店内中央から吹き抜け階段になっていて、どうやらその上は作業場のようでした。布団の縫い込みや綿の打ち直しなどの仕事スペースに違いなく、こんな昔ながらのお店がちゃんと今でも残っていること自体がホッとするのを通り越してちょっと感動的な気分にさえなります。
来意を告げると、応対に出た女性がすぐに二階に取りに行って、しばらく待たされたあと、真っ白い綿を持って降りてきました。その方曰く、綿は湿気を非常に吸い込みやすく反面、放湿は苦手なので、どうしても綿の中に湿気がたまりやすくなる性質があるとのこと。布団の場合はお天気の良い日に日干しをしたりすることになるけれども、スピーカーじゃそれも出来ないでしょうからという判断で、混合のものをひとつ購入することになりました。
ひとつといっても相当の量で、大きめのビニール袋がいっぱいになるぐらいで、とても全部は使い切れない量がありましたが、値段がまた安く、オーディオ専門店などもおそらくほとんど同様の品だと思われますが、価格は数倍に及ぶようですから、この点もなんだか得したような気分になりました。
なんでも、この店は創業120年なんだそうで、現在は販売の他に遠方から綿の打ち直しなどの依頼があるという話でした。スーパーやネットもたしかに便利ですが、欲しい物を直接手にとって、お店の人と会話しながら納得ずくで購入するというオーソドックスなスタイルでやりとりをすると、ふしぎに気持ちもゆったりしてどことなく幸福な気分になるものです。
昔はこういうなんでもないところからも、人の心の在り方が違ったんだというような気がしました。