行列と満腹

昨日はどうしてもという必要に迫られて、あまり行かないことに決めたはずだったIKEAに行くことになり、友人に同行を頼みました。

23日は折悪しく連休中でもあり、さらにはクリスマスイブの前日ということも重なってか、予想通りのたいへんな人出でした。
当然ながら、そんな日の昼間に行くなんて無謀なことをする勇気はありません。マロニエ君達が駐車場に入ろうとしたのは、たしか午後6時ごろでしたが、この時間になってもまだあたりは車でひしめき合って、さすがに満車ではなかったものの、隅々までびっしりと車が並んでいました。

季節柄、日もどっぷりとくれているというのに、ヘッドライトの先にはまだ誘導員がいて、車の流れを忙しげに整理していますから、おそらくは今年最後の盛り上がりというところなのでしょう。

なんとか車を置いて、店内に入って目的の商品を見ていると、どうやら今の時期は「期間限定」のいろいろなイベントをやっているようで、二階のレストランでもスウェーデンのクリスマス・ディナーと銘打ったバイキングをやっていると店内アナウンスが言っていました。

大人1500円こども600円の「ドリンク付き食べ放題」とやらで、友人はどうやらそれに行きたがっているような雰囲気をプンプン醸し出しはじめ、内心「まずいなぁ…」と思いました。
でも、たしかに時計の針は夕食時ではあるし、マロニエ君は特別食にこだわりがあるほうではなく、そこそこ美味しく食べられれば何でもいいというタイプなので、それならば…とそこに行ってみると、目に飛び込んだのはかなりの長蛇の列で、たちまち恐怖を覚えます。
マロニエ君単独の意志なら、この行列を一目見て迷わず通り過ごすところですが、友人は「今だけ食べ放題のスウェーデンのクリスマス・ディナー」という謳い文句に抗しがたい魅力を感じているようでした。
こちらとしても遠くまで付き合ってもらっているわけで、ここまできて相手の希望だけ無視するわけにもいかないので、マロニエ君としても覚悟を決め所と思い定めて、ついに列に並ぶことになりました。

はじめに1500円也を支払って列の最後尾につくわけですが、この列が完全に停滞して一向に進む気配がないのには、いきなり怖じ気づきました。
なぜ進まないかというと、料理は進行方向の一列のみに配置されていて、前の人が取り終わるまで次の人以降の列全体がそれを待つことになり、それが延々と連なって、まるで連休の高速道路の渋滞のようになり、想像を絶する超低速の進行状況を作り出しているわけです。

こうなると、いくら食べ放題とはいっても、料理を取るチャンスは事実上一回限りだということが、誰の目にも明らかです。
そのかわり、列の入口には奇妙なカートが置かれていて、皆さん等しくそれを使っているのがわかります。カートは三段構造になっており、少し先にはちょうどサイズの合う長方形のトレイが重ねられていて、その横にはミート皿がうず高く積まれています。

すると、みんな専用カートを引き寄せ、トレイを三段それぞれに配置して、さらにはお皿を6枚取っています。これが並んで待っている間になすべき準備であることを、人は皆、先人の行動を見ながらたちまち学習し、無言のうちにサッサと同じ作業をしています。

列はニクロム線のように行ったり来たりしながら、ちょっとずつ料理が置かれたエリアに近づいていくのですが、途中で隣の列の人達と対面して進行(ほとんど動かないが)する部分があり、そのときが自分を含めてなんだかとても滑稽な気分になりました。
子供は比較的無邪気ですが、大人は一様に疲労感と忍耐を隠せない表情ですが、同時に戦いを目前にして並々ならぬ覚悟を決めたような緊張感をも必死に押し殺しているようで、なんともいえない奇妙な空気がピーッと張りつめていました。

おそらくは30分ぐらい待ったあげく、マロニエ君もここまでくれば仕方がないと腹を括ってそれなりに料理に手を伸ばしましたから、いまさら自分だけは別だと言うつもりは毛頭ありませんけれども、でも、中には本当にすごい人達がいて、そのすごさをあれこれと目撃させられました。
人の本性が垣間見えるときというのは、可笑しさと恐怖が無秩序に交錯するものだというのがわかりました。

とはいうものの、結果的にひとり1500円で猛烈な満腹状態になったのですから、文句も言えませんね。

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