仕事の都合上、室内の一部をやむなくリフォームすることになりましたが、リフォーム会社というものは優劣さまざまで以前から要注意業界でもある旨をテレビなどで再三にわたって聞いていましたので、果たしてどうしたものかと思いました。
マロニエ君よりもずいぶん年上ですが、信頼という点にかけては間違いのない昔からの知り合いがいましたので、さっそく連絡してみました。その人は直接のリフォーム業者ではなく、業界の職人さんなのですが、なんと激変する時代に嫌気がさして少し前に廃業してしまい、付き合いのあった仲間達も散り散りになったという衝撃的な話を聞かされました。
やはりというべきか、今どきの時流の変化と厳しさは、いかなる業種にも容赦なくその荒波が襲いかかり、建築関係においてもまったく例外ではないようです。いや、もしかすると、この業界こそ儲け主義と技術革新甚だしい急流の部分にあるひとつなのかもしれません。
よくテレビなどで、長年親しまれた地元の商店街の近くに、突如として大資本の大型スーパーやショッピングモールが進出してきて、周辺のお客さんは、まるで潮の流れが変わったようにそっちへ奪われてしまい、小さな個人商店の集まりなどでは手も足も出なくなるという構図がありますが、まさに似たような話でした。
以前なら、建築関係の世界にも各分野ごとに、いわゆる腕利きの職人さん達がいて、何かというと彼らは個々に、あるいは互いに連携して柔軟に仕事を進めていたといいます。なにしろ技の世界ですから、若い頃から親方のもとで辛い修行を積んで、一人前になるのは生半可なことではないとか。
彼らは家を建てることから、ちょっとしたお風呂の修理まで、依頼内容に応じてあちこちへ出向いたり、適材適所に仲間を紹介したりされたりで、それぞれが誇りあるプロとして納得のいく仕事をしていたのだそうです。
ところが今はなんでも大資本・大企業が業界を席巻し、まさにクジラのようにあらゆる仕事をそっくりのみ込んでいくのだそうで、それが何社も重なり合うようにして地域ごとに進出するため、個人の職人さん達の出る幕など皆無なんだそうです。中には上手い具合に企業にもぐり込んで、かろうじて仕事を続ける人もあるそうですが、多くは年齢的なことや新技術の習得など様々な事情が重なって、廃業してしまう人が圧倒的に多いのだそうです。
実は、マロニエ君がスピーカー作りの際、土台部分の木材の円形カットをやってくれる工場を探した際にも耳にしたことですが、昔はちょっと田舎なら、あちこちに普通に木工所といわれるものがあったらしいのですが、こちらも今は激減し、残っているのはことさら手作りとか工房とかいう類のものだけで、ありがたげなこだわりや付加価値を謳いながら、ひとつひとつを丁寧に注文製作するようなところばかりで、値段もゼロがひとつ違うんじゃないの?というほど高額で、とても気軽に立ち寄って、「これこれの寸法に切ってください」「ほいきた!」という感じにはいかないようです。
というわけで、今どきは(例外はあるかもしれませんが)どんな世界でも、大半は大会社だの大手企業だのが仕事の大小にかかわらず、圧倒的組織力にものをいわせて、いわば集塵機で根こそぎチリを吸い集めるようにしてビジネスを奪い取ってしまうという、なんとも恐ろしい事態が起きているようです。
こうなってしまうとどんなことでも、仕事をするにはまずもって大会社、もしくはそれに連なる系列に身を置かなければ仕事そのものにありつくことができず、だからますます大会社至上主義のようになるんでしょうね。
そういう意味では、どんな仕事でも、自分のペースで淡々とやっていける人の数というものは、ほとんど絶滅危惧種並みに少なくなっていると思われます。そしてそれが可能な人は、まずそのこと自体が大変な幸福だと思わずにはいられません。
「格差社会」という言葉はあらゆる機会に言われて久しいものですが、古い知り合いであっただけに、なんだか象徴的にその具体例を見せられた気がしました。
少しでも明るい社会になるよう、なんとか安部さんの手腕に期待したいところです。