ポリーニ来日公演

今秋サントリーホールで行われたマウリツィオ・ポリーニ日本公演~ポリーニ・パースペクティブ2012の様子がBSプレミアムで4時間にわたって放映されました。

マンゾーニの「イル・ルモーレ・デル・テンポ(時のざわめき)~ビオラ、クラリネット、打楽器、ソプラノ、ピアノのための~」からはじまり、ところどころにポリーニがソロで出てくるというものでした。

この一連のコンサートは、そこに一貫した主題を与えるのが好きなポリーニらしく、ベートーヴェンの存命中のコンサートでは常に新しい音楽が演奏されていたという点に着目して、ベートーヴェンのソナタと現代音楽を組み合わせながら進行するという主旨のプログラム構成でした。

今回はポリーニの息子のダニエーレ・ポリーニ氏も来日し、父のインタビューの傍らに座ってときどき似たようなことを話していたほか、ステージではシャリーノの謝肉祭から3曲を日本初演する機会を得ていたようです。

ポリーニは現代音楽ではシュトックハウゼンのピアノ曲を2曲を弾いたのみで、それ以外はベートーヴェンの5つのソナタ、第24番、第27番、そして最後の三つのピアノソナタを演奏しました。

さて、このときのポリーニのことを書くのはずいぶん悩みました。
それはさしものポリーニ様をもってしても、そこで聞こえてきたものは、どう善意に解釈しようにも、もはや良い演奏とは思えなかったからなのです。しかし、彼を批判することはピアニストの世界では、なんだか神を批判するような印象があるから、やはり躊躇してしまいます。

しかしプロの世界、それも世界最高級のレヴェルの芸術家なのですから、やはり彼らは自分の作品(演奏家の場合は演奏)に厳しい批判を受けることも、その地位に科せられた責務だと思いますので、あえて控え目に書かせてもらおうという結論に達しました。

ポリーニの肉体の衰えはかなり前から感じていましたが、それはいかに天才とはいえ生身の人間である以上、だれでも歳を取り老いていくのですからやむを得ないことです。ただ、最高級の芸術家たるものは肉体の衰えと引き換えに、内的な深まりや人生経験の少ない若者には到底真似のできないような奥深い世界への踏み込みや高みへの到達など、ベテランならではの境地を期待するものですが、少なくともマロニエ君の耳にはそのようなものは一切聞こえてくることなく、何かがピタリと止まってしまっているような印象でした。

インタビューではどんなことに対しても、自説を展開し、歴史まで丹念に紐解いて論理的にながながと講釈をしますが、それほどの斬新な内容とも思われませんでしたし、とくにベートーヴェンの後期の作品に対する解説も、ピアノ曲以外の作品まで持ち出してあれこれとかなりやっていましたが、実際のステージでの演奏は、そういうこととはなんの関連性も見出せないような、こう言っては申し訳ないですが、むしろ表面的なものにしか感じられなかったのは非常に残念でした。

ベートーヴェンの音楽を聴いた後に残る、魂が高揚した挙げ句に浄化されたような気持ちになることもできませんでしたし、老いたとはいえこれほどの大ピアニストの演奏に接して、何かしらの感銘らしきものを受けるということもなく、ただただ若き日のアポロンのようなポリーニの残像を自分なりにせっせと追いかけるのが精一杯でした。

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