らららのピアノ特集

先日のNHK日曜夜の「らららクラシック」ではピアノ特集第2弾というのをやっていました。

番組では、現役のピアニストをいくつかのグループに分け、それぞれの特徴に合わせながら紹介していくという趣向でしたが、トップバッターは「圧倒的技巧グループ」というもので、演奏技術の極限に挑み続けるピアニストだそうで、ここで紹介されたのはロシアの格闘技選手みたいなピアニスト、デニス・マツーエフと、もうひとりはなんとピエール・ロラン・エマールということで、いきなりこの「なぜ?」な取り合わせに絶句してしました。

エマールはむろん大変な技巧の持ち主であることに異論はありませんが、かといって圧倒的技巧が看板のピアニストだなんてマロニエ君は一度も思ったことはありません。出だしからして番組に対する信頼を一気に失いました。

次は「知的洞察グループ」で、楽譜の研究を徹底的におこない、定番の作品にも新たな光りを当て観客にも発見の喜びをもたらすということで、ここではアンドラーシュ・シフひとりが紹介されていました。
この人選はなるほど間違いではなく、少し前ならブレンデルなどもこの範疇に入るピアニストであったことは間違いないでしょうね。むしろエマールはこちらに分類すべきだったとも思いますし、内田光子やピリスもそのタイプでしょう。

さらに次は「独走的独創グループ」で、伝統にとらわれず独自の音楽を作り上げ、観客に未知の世界を体験させるということでは、なんとラン・ランとファジル・サイが紹介されました。
サイには確かにこの括りは適切で大いに納得できますが、ラン・ランとは一体どういう判断なのかまったくわかりませんでした。彼の音楽に独自性なんてものがいささかなりともあるなどとは思えませんし、雑伎団的な目先の演奏で人を惹きつける点などは、せいぜい技巧グループで十分でしょう。また現存するこの分野の最高峰といえばマルタ・アルゲリッチの筈ですが、彼女の名前すら挙がらなかったのは到底納得できませんでした。ソロをなかなか弾かないというハンディはありますけれども。

次は「コンクールの覇者」ということで、ショパン・コンクールの優勝者であるユリアンナ・アヴデーエワとチャイコフスキーの覇者であるダニール・トリフォノフが紹介されました。
アヴデーエワの弾く、リスト編曲によるタンホイザー序曲は何度聴いても実に見事なものでしたが、トリフォノフには演奏家としてのなんら指針が見受けられず、このときの映像でのこうもり序曲は、ただの指の早回し競争みたいでテレビゲーム大会に興じる子供のようで、マロニエ君にはまったく感銘を受ける要因が皆無でした。

ちなみに、ファイジル・サイは数年前の来日時にNHKのスタジオで収録されたムソルグスキーの展覧会の絵の終曲が紹介されましたが、逞しい体格と、余裕にあふれたテクニック、すさまじいエネルギー、確信的な音楽へのアプローチなどは他を寄せ付けぬ圧倒的なモノがあり、この強烈さは、ふと在りし日のフリードリヒ・グルダを彷彿とさせるような何かを感じたのはマロニエ君だけでしょうか。
彼はNHKのスタジオにはたくさんあるはずのスタインウェイの中から、おそらくはディテールなどから察するに1970年代のDを弾いていましたが、現代のそれに較べると、明らかにイージーな楽器ではない厳しさと暗めの輝きがあり、こういう力量のあるピアニストはこういう楽器を好むのだろうという気がしました。

最後は昨年のポリーニの来日公演から、ベートーヴェンのop.110が全曲流れましたが、これについてはすでに何度も書いていますので割愛します。
また、メインゲストであった中村紘子さんのトークもあいかわらず健在で、番組冒頭で「これまでに何人ぐらいのピアニストを聴かれましたか?」という司会者の質問に「そうですね、数えたことがないんですが、1万までは行かないと思いますが…」すると司会者が「7、8000人は優に超える」「そうですね」という珍妙なやりとりがあり、なーんだ、ちゃんと数えてるじゃん!と思いました。

この日は、不思議なほど登場するピアニストに女性や日本人の名前が挙がらなかったのは、何かが影響したからだろうかと感じた人は多かったか少なかったか…どうでしょう。

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