このところ、ちょっとしたきっかけがあって中古のアップライトピアノのことをネットであれこれ調べていると、やはりここにもいろいろな事実があるらしいことが少しずつ分かってきたように感じます。
当然ながら主流はヤマハとカワイで、比較的新しいピアノが中古市場に出回っているようですが、ひとつハッキリと発見したことは、少なくとも黒が限りなく当たり前のグランドに較べると、色物というか、いわゆる木目調ピアノの占める割合がアップライトのほうが遙かに高いようです。
サイズはいろいろありますが、アップライトの場合は床の専有面積はどれもほとんど変わりませんから、もっぱら背の高さの違いということになり、マロニエ君だったら当然響板も広く弦も長い最大サイズの131cmを選ぶでしょうが、なぜか小さいものが人気だったりと不思議な世界です。逆に言うと、アップライトで敢えて小さいサイズを購入される方というのは、どういう基準でそうなるのか知りたいところです。
そんな折、遠方からピアノのお好きな来客があったので、ある工房に遊びに行きましたが、そこのご主人の話はマロニエ君にとってはまったく思いもよらない意外なものでした。
とりあえずアップライトに限っての話ですが、いわゆる「猫足」という例のカーブのついた前足を持つピアノが断然人気があり、そのぶん値段も高くなるのだそうで、これにはもうただビックリ。
マロニエ君はあくまで個人的な好みとしてですが、あのアップライトの猫足というのはまったくなんとも思わないといいますか、まあもっとハッキリ言ってしまうとむしろ好きではないですし、そうでないストレートな足のほうが凛々しくスマートで好ましいと感じます。
とりわけ昔ヤマハにあったW102という、アメリカン・ウォルナット/ローズウッドの艶消し仕上げのモデルなどは、数少ないマロニエ君の好みのアップライトなんですが、ここのご主人にいわせると、このあたりも猫足でないために値段は少々安めとのことで、その価値観には驚愕するしかありませんでした。
唐突ですが、マロニエ君はマグロのトロなんかが大の苦手で、大トロなど見るのもイヤ、あんなギラギラした脂のかたまりみたいな身なんかだれが食べるものかというクチで、食べるのは赤身かせいぜい程良い中トロまでですが、世の中の好みと、それに沿った価格差はまるで合点がいかないことを思い出してしまいました。
猫足に話を戻しますが、あまり驚いたので人気の理由を聞くと、ひとこと「決めるのはたいてい奥さんだから」なんだそうです。…。
ということは、あの猫足は、よほど女性のお好みということなのかもしれませんが、女性にとって猫足のどこがそんなにいいのかマロニエ君はまったくわかりません。
それに対して、グランドの猫足は別物という気がします。
グランドの場合は、バレリーナのように、三本の足がそのままデザインの大きな要素を担っており、あの特徴的なボディのカーブとも相俟って、いわばピアノ全体の佇まいを決定します。猫足ピアノの多くは、それに合わせてそれ以外の部分も細やかな手が入れられ、ときに細工や彫り物まであって、たしかに独特の優雅さを醸し出しているので、これを好むのはわかります。
しかし、アップライトの場合、基本はほとんどデザインとも言えないような鈍重で無骨な四角い箱であり、そこへ鍵盤がせり出しているだけ。その鍵盤の両脇から下に伸びる小さな足だけがちょっと猫足になったからといって、それがなに?と思いますが、まあそれでも価値がある人にとってはあるのでしょうね。
しかも、それだけで中古価格まで違うのだそうで、ときに格下のピアノが猫足という理由だけでワンランク上のピアノの価格を飛び越すこともあるというのはまったく呆れる他はなく、それが世に言うお客様のニーズというものかとも思いました。
ニーズがあれば相場も上がるというのは世の常なのでしょうが、しかし…いやしくもピアノであり楽器であるわけですから、色やデザインも大事なのはもちろんわかりますが、やはり第一には音や楽器としての潜在力を優先して選びたいものです。