このところ福岡市東区の国道3号線、およびその周辺道を通ることが何度かありましたが、目を見張るのは、この一帯は昔が何であったのかさえすぐには思い出せないほど近代的な景観に生まれ変わって、高層マンションなどがいくつも出来ているし、周辺の道路も美しく整備されて、以前の面影はまったくないことでしょう。
中心になる2棟の大型高層マンションなどは、数年前までは工事費用の問題からか売れる見込み立たなかったのか、詳細は知りませんが、工事そのものが途中で頓挫して、半分ぐらい出来上がったコンクリートの外壁が、哀れな姿を晒していたものでしたが、その後工事も再開され、それを契機にその他のビルなども建築が進んで完成し、今ではちょっとした福岡の東の副都心的な様相を見せています。
福岡市はいつのまにやら東西に高層のマンションなどが数多く立ち並ぶ街になり、まさに市の両翼を支えているという印象さえなくはないようです。これに合わせるように周囲の道も次々に作られては運用が開始され、カーナビのソフトはいつも古いバーションになってしまうほどです。
さて、そんな東区香椎の新エリアですが、大型高層のマンション群の脇にはまだまだ手つかずの広大な地所があり、こんなところに新しいホールでも出来たらいいのになあと思っていました。しかし、それはマロニエ君の空想であり願望に過ぎず、実際にホールのような文化施設を作るには莫大な費用はかかるし、現在のような冷え込んだ音楽業界やコンサートの現状をみれば、とてもそれで経営が成り立っていくものでもないだろうし、まあ採算の取れるマンションやショッピング施設などしか建設計画には挙がらないだろうと思っていました。
ところが、あるとき楽器店の方から「あそこに」どうもホール建設の方向の話が進んでいるらしいとの情報がもたらされて急に嬉しくなりました。今はまだその広大な空き地はなにも手が着いていない状態ですが、すでに楽器メーカーのほうにはピアノの価格などあれこれの打診がなされているとのことで、ということは、あるていどの基本計画ぐらいは決まったのではないかと思ってしまいますが、果たしてどうでしょう?
福岡市内でも居住者の多い東部副都心部に文化施設ができるということは嬉しいことですが、ただし杞憂がないではありません。
東京でも紀尾井ホールや浜離宮朝日ホール、福岡でもアクロスなどができたのはいずれも1990年代の半ばで、この時期はバブル経済がはじけた後遺症を引きずりながらも、まだ世の中には、いいものを作ろうという余韻と志のようなものが関係者の心の中にはあって、作る以上は地域の誇りになるような一流の施設を作ろうじゃないかという気概のようなものがあったように思います。
それからほぼ20年余、時代の変転は想像以上のものがあり、マロニエ君は昨年県内に久々に新しくオープンしたホールに行ってみて、その露骨なまでの低コストも露わな簡素な施設にただただ驚き、唖然とさせられたのはいまでも強烈な印象となっています。
こういってはなんですが、文化施設というのは、もちろんエリアの人が気軽に利用できる要素も併せ持っていなくてはいけない面もあるとは思いますが、基本的には文化の象徴であり、地域の精神的な中心地であるような、つまり「良い意味であまり気軽ではない」という存在であってほしいと思うのです。
名前や建前は立派でも、実体はただの地元のコーラスの練習だの、アマチュアの便利なステージ、カルチャースクールの集合地のようになると、却って特定の人達の専有物のようになってしまうだけのようにも思います。もういまさら図書館などを併設しなくていいから、ここはぜひしっかりした、百年もつようなものをつくってほしいと思いますが…無理でしょうね。