ヤマハビルとの別れ

先の日曜は、福岡のヤマハビル内で行われた室内楽などの講習会へ知人から誘っていただき聴講してきました。

数日間行われたシリーズのようで、マロニエ君が聴講したのはN響のコンサートマスターである篠崎史紀氏が自らヴァイオリンを弾きながら、合わせるピアノの指導をするというものでした。
小さな部屋でしたが氏の指導を至近距離で見ることができたのは収穫でした。

しかし、この日はなんとも虚しい気分が終始つきまといました。
それは博多駅前にある大きなヤマハビル自体が今月末をもって閉じられることになり、一階にあるグランドピアノサロン福岡も見納めになるからでした。
全国的にもヤマハのピアノサロンは大幅に縮小されるようで、東京と大阪を残して、それ以外はほぼ似たような処遇になるようです。これで福岡(というか西日本の)のきわめて重要なピアノの拠点が失われることになるのは、まったくもって大きな喪失感を覚えずにはいられません。

講習の帰りに、知人らと一緒にグランドピアノのショールームにもこれが最後という思いで立ち寄りましたが、昨年発表されて間もないCXシリーズがズラリと並んでいる光景もどこかもの悲しく、惜別の気持ちはいよいよ高まるばかりでした。

社員の方々もさぞや無念の思いで最後の日々を過ごしておられるだろうと思いますが、ショールームではコーヒーをご馳走になったことで最後のお別れがゆっくりできたような感じでした。

ピアノには片っ端から触るわけにもいかないので、数台あったC5Xと、C6X、C7X、S6などに触らせてもらいましたが、この中では、マロニエ君の主観では圧倒的にC6Xが素晴らしく、それ以外の機種が遠く霞んで見えるほどの大差があったのは驚く他はありません。
通常、同シリーズであれば、サイズが大きくなるにつれて次第に音に余裕と迫力が増してくるものですが、このC6Xの完成度というかキラリと光る突出のしかたは何なのか…と思うほどでした。

C5XとC7Xには互いに共通したものと、その上でのサイズの違いが自然に感じられますが、C6Xはタッチも音もまったく異なり、DNA自体が違う気がしましたが、これは久々に欲しくなったヤマハでした。
また価格も倍近くも違うS6は、個人的にはどう良いのかがまったく理解できず、目隠しをされたらこの両者は価格が逆なんじゃないかと思ってしまうだろうと思います。

最後の最後に、自分でも欲しいと思えるような好みのヤマハのグランドに触れることができたのは、せめてもの幸いというべきで、マロニエ君の中では良い思い出の中で幕が降りることになりそうです。

聞くところによると、現在のピアノの全販売台数のうち、電子ピアノが実に85%を占めるまでになり、アコースティックピアノはアップライトが10%、グランドはわずかに5%なのだそうで、いわば模造品に本物が駆逐されてしまった観がありますが、見方を変えれば電子ピアノの普及によってピアノを気軽に習う人が増えたという一面もあると解釈できるのかもしれません。

折しも日本は、やっと暗い不況のトンネルの出口が見えつつあり、景気回復の兆しがあらわれ始めたところですから、近い将来、少し郊外でもいいので、もう一度ヤマハのショールームが復活する日の来ることを願わずにはいられません。

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