「演奏とは、誰のためのものなのか。何を目的とするものなのか。」
こういう素朴な疑問をしみじみ考えさせられるきっかけになりました。
ユリアンナ・アヴデーエワのピアノリサイタルに行きましたが、期待に反する演奏の連続で、虚しい疲労に包まれながら会場を後にしました。
ショパンコンクールの優勝後に初来日した折、N響と共演したショパンの協奏曲第一番では、まるで精彩を欠いたその演奏には大きな落胆を覚えたものの、その一年後のリサイタルでは見事に挽回、ワーグナーのタンホイザー序曲やプロコフィエフのソナタ第2番などの難曲を圧倒的なスケールで弾いたのには度肝を抜かれました。
そして、これこそが彼女の真の実力だと信じ込み、いささか疑問も感じていたショパンコンクールの優勝も当然だったと考え直し、ぜひとも実演に接してみたいと思っていた折の今回のリサイタルでしたから、半ば義務のようにチケットを買った次第。
プログラムはバッハのフランス風序曲、ラヴェルの夜のガスパール、ショパンの2つのノクターン、バラード第1番、3つのマズルカ、スケルツォ第2番、さらにはアンコールではショパンのワルツ、ノクターン、マズルカを弾きました。
全体を通じて云えることは、作品を深く読み解き、知的な大人の音楽として構築するという主旨なのだろうと推察はするものの、あまりに「考え過ぎ」た演奏で、そこには生の演奏に接する喜びはほとんどありませんでした。
冒頭のバッハでいきなり違和感を感じたことは、様式感が無く、度が過ぎたデュナーミクの濫用で、いかにもな音色のコントロールをしているつもりが、やり過ぎで作品の輪郭や躍動感までもが失われてしまい、全体に霞がかかっているようでした。さらには主導権を握るべきリズムに敬意が払われず、これはとくにバッハでは大いなる失策ではないかと思います。お陰でこの全7楽章からなるこの大曲は退屈の極みと化し、のっけから期待は打ち砕かれました。
続く夜のギャスパールは、出だしのソラソソラソソラソこそ、さざ波のような刻みでハッとするものがありましたが、それも束の間、次第にどこもかしこもモッサリしたダサイ演奏でしかないことがわかります。
ラヴェルであれほどいちいち間を取って、さも尤もらしいことを語ろうとするのは、マロニエ君にはまったく理解の及ばないことでした。
終曲で聴きものとなる筈のスカルボでも、終始抑制を効かせた、意志力の勝った、ことさらに冷静沈着で燃えない演奏で、不気味な妖怪などついに現れないうちに曲は終わってしまいました。
かつてのロシアピアニズムの重戦車のごとき轟音の連射と分厚いタッチの伝統への反動からか、この人はやみくもにp、ppを多用し、当然フォルテもしくはフォルテッシモであるべき音まで、敢えてmfぐらいの音しか出さないでおいて、それが「私の解釈ではこうなるのです」と厳かに云われているようでした。
彼女にすれば、メカニックや力業で聴かせないところに重点を置いているということなんでしょうけれども、いくら思索的であるかのような演奏をされても、そこになにがしかの必然性と説得力がなくては芸術的表現として結実しているとはマロニエ君は思いません。
それぞれの個性の違いはありながら、本当に優れたものは個々の好みを超越したところで燦然と輝くものですが、残念ながらアヴデーエワの演奏にはそれは見あたりませんでした。
この人の手にかかると、リピートさえ鬱陶しく、ああまた最初から聴かなくちゃいけないのか…と少々うんざりして体が痛くなってくるようでした。
音楽というものが一期一会の歌であり、踊りであり、時間の燃焼であるというようなファクターがまったくなく、何を弾いても予めきっちりと決まった枠組みがあり、その中で予定通りに自分の考えた解釈や説明のようなものを延々と披露されるのは、音楽と云うよりは、ほとんどこの人独自の理論を発表する学界かなにかに立ち会っているようでした。
開場に入ってまもなく、CD売り場があり、終演後にサイン会があるというアナウンスを聴いて、ミーハーな気分からサインを頂戴すべく一枚購入しましたが、前半が終わった時点で、これはチケットもCDも失敗だったことを悟りました。
それでも、ちゃっかりサインはしてもらいましたから、自分でも苦笑です。
この日はなにかの都合からか、福岡国際会議場メインホール(本来コンサートホールではない)での演奏会ということで、ここでピアノリサイタルを聴くのは二度目ですが、出てくる音がどれも二重三重にだぶって聞こえてくるようで、響きにパワーがなく、つくづくと会場の大切さを痛感しました。
ピアノはヤマハを運び込むような話も事前に耳にしていましたが、フタを開けてみればこの会場備え付けのスタインウェイDで、久々にCFXを聴けるという楽しみは叶いませんでした。見ればこの日の調律師さんは我が家の主治医殿で、なかなかこだわりのある美音を創り上げていらっしゃるようでしたが、なにしろこの音響と???…な演奏でしたから、その真価を味わうこともあまりできなかったのが残念でした。
アヴデーエワに質問が許されるなら、ひとこと次の通り。
「貴女の演奏は、本当に貴女の本心なんでしょうか?」
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ショパンコンクールの演奏がいいだけに期待はされますよネ?YOUTUBEでみて
(好みはあると思いますが)
その後の日本公演のショパンの2番の動画がありましたが好きな演奏ではありませんでした。
フォルテピアノを東京で18世紀オーケストラと行うみたいですが意識しての演奏
スタイルなのでしょうか??