ブフビンダーの皇帝

先日のN響アワーで放映されたブフビンダーの皇帝を、今朝の衛星放送でまたやっていました。
これはN響の定期公演を収録したものでベートーヴェンの「皇帝」と「英雄」という、まるで絵にかいたような名曲揃い踏みのプログラムで、調性も共に変ホ長調。
封建時代でいうと女性立ち入り禁止みたいなプログラムでした。

ブフビンダーは、ヨーロッパでは日本人が考える以上の支持があるようですが、作品解釈および演奏という点ではとても正統的で、なによりもその流れの自然さがこの人の持ち味だと思いました。
おしなべてウィーンのピアニストというのは、作品に忠実なタイプが多いものの、同時にいまひとつのインパクト性に欠ける面もあるような気がしなくもありません。(もちろん中にはグルダのような暴れん坊もいますけれど。)
演奏ももちろん立派なものではありましたが、ヨーロッパとくにウィーンでは古典作品をレパートリーの中心に置く演奏家は、尊敬の対象になりやすい伝統があるような気もしますが、どうでしょうか。

終始曲は快適なテンポで進行し、妙に恣意的もしくは学術的に捻りまわしたようなところも一切なく、安心して聴いていられるものでした。欲を言えば、いささか雑な一面もなくもなく、もう少し明瞭な歌いこみやメリハリのきいた丁寧な美しさが欲しい気もしました。
しかし、このマーチン・シーンのような顔をしたピアニストはステージマナーもたいへんエレガントで、今の若手演奏家がどこか学生のような軽い印象を払拭できない人が多い中で、いかにも大人の存在感とグランドマナーの魅力がありました。

マロニエ君的には唯一惜しいというか奇異な気がしたのは、かなり高めに設定された椅子でした。
もちろん皇帝のような力強い曲を弾くためには必要なことだったのでしょうが、高すぎる椅子というのは特に男性ピアニストの場合、あまり見てくれのいいものではありません。
引退したブレンデルもそうでしたが、あの長身で椅子を盛大に高くするものだから、足はいつも鍵盤裏につっかえてましたし、見ていてなにか収まりが悪くて気になります。

N響は昔のような重量感はなくなりましたが、アンサンブルの上手さはさすがだと思いました。
ブロムシュテットの振る英雄は、テンポも早めで軽く、なんだかそわそわした感じが目立ちました。
マエストロにすればこれがN響の長所に適った演奏だということなのでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です