今年はショパン生誕200年ということでいろいろなCDが出ていますが、次々に肩すかしをくらうほどしっくりくる演奏がありません。ちょっと思いついただけでも以下の通りで、実際はまだあります。
●マロニエ君最愛のピアニストであるアルゲリッチも古い未発表の音源が出てきましたが、彼女の本領はショパンにはなく、とくに新鮮味はないし、初めて出たバラードの一番なども含まれているものの、これよりはるかに優れた演奏も非正規録音で存在するので、マロニエ君としては珍重するほどのものでもありません。
●以前も少し書きましたが、知る人ぞ知るフランス系カナダ人の新しいアルバムも、いかにもそつなくまとまった美しい演奏ではあるものの、「予定通りの仕事」という感じで一向に感興が沸きません。
●日本人の大変若い天才少女のCDは動画サイトで見ていた通りで、ピアノが上手いことはまあそうだろうけれども、品格に欠け、まったくマロニエ君の好みではありませんでした。ああいう演奏でショパンに触れた気には到底なれませんし、まるでコンクールか音大の試験にでも立ちあっているようでした。
●ショパンコンクールの優勝者で、今年は何枚かCDを出したアジアの青年のアルバムは、店頭の試聴盤を聴いただけで一気に興醒めして購入はおろか、聴き続ける気にもなれませんでした。どこかの音楽雑誌で、彼の今年のワルシャワでの演奏を、ショパンの音楽祭の芸術監督だった人だと思いますが、「スタンダードだが、表現に冒険がない」と切り捨てたようでしたが、まさに同感。なんの喜びも自発性もない正確なだけの恐ろしく退屈な演奏でした。
●優勝といえばクライバーンで一躍時の人となった日本人も、最近になって決勝でのショパンの1番の協奏曲と、子守歌、op.10のエチュード全曲を入れたアルバムが出ましたが、エチュードでは美しくも溌剌としたこの人の魅力が聴けてよかったものの、協奏曲では一向に生彩も覇気もなく、オーケストラとのアンサンブルもいまいちで両者共にビビったような内向きな演奏になっているのは残念でした。この一曲だけを聴いたなら、よくぞ優勝できたと不思議な気がするでしょう。
まだまだ続きます。
●昔はモーツァルトを中心とする優れた演奏でヨーロッパでも輝いていたニューヨーク生まれのピアニストも、はや壮年に達し、このところ盛んにショパンの録音をしていますが、これがまたまったくマロニエ君の理解できない、ショパン的な美しさのまるでない、無意味に美しい空虚な演奏で、聴いていて酸欠状態になりそうでした。
●フランスを代表するショピニストとしてその名を馳せる彼が、二回目のマズルカを日本で録音したものが発売されましたが、美しいところがあることはあるにしても、全体にもたつき、くだくだしく、恣意的で、前の録音のほうがまだ良かった気がします。これほど流れに乗れないショパン演奏がなぜあれほど評価されるのやら、さっぱりです。
もうこれは耐えられない!と思い、古い演奏を聴いて耳を洗うことにしました。
選んだのはモーリツ・ローゼンタールの小品集でしたが、全体のフォルムの美しさ、流れの優美さ、いかにもショパンに相応しい細部の処理や私的な響き、自然な抑揚など、さすがだと思いました。
気を良くしてコルトーに移動すると、ショパン濃度はますます上がっていくようです。細部にアレッ?思うような部分があったり曲による出来不出来が激しかったりするものの、やはりショパン演奏の原点という気がして、ようやくほっと一息つくことができました。
いろんなCDを冒険的に買うことはマロニエ君の好きなことなのですが、それでもショパンばかりは怖くてなかなか手が出せません。経験的に9割は間違いなくマロニエ君にとってはゴミになるのです。