ラベック姉妹

多くの皆さんもきっと同様ではないかと思いますが、いわゆる人間の第一印象といいましょうか、初めに受けたイメージや、そこから発生した好みというものは、これが意外なことに自分が考えている以上に正確で、途中で覆るなんてことは非常に稀というかむしろ例外的です。

大半の場合においては、何十年経ってもその印象が変わることはまずないのが自分を振り返っての結果ですし、少なくとも自分という主体においては、ある意味、第一印象ほどぶれがない信用度の高い情報は他にないように思います。

マロニエ君にとっては、ピアノのラベック姉妹がそのひとつで、彼女達が楽壇に華々しく登場したのはもうかなり昔のことでしたが、そのころから何度かその演奏を聴いてみましたが、彼女達の何がどんな風にいいのか、当時からまったく理解ができませんでした。

ビジュアルとしては美しいフランスの女性ピアノデュオで、姉妹であるにもかかわらず二人のキャラクターはまったく異なり、お姉さんは饒舌で、演奏の様子もジャズマンのように情熱的で野性的、片や妹はもの静かで黒髪を垂らしたひっそりとしたタイプ。

それはさておいても、その演奏には、マロニエ君は初めて聴いたときから、良いとか悪いとか好きとか嫌いとかいうものが不気味なほど発生せず、ひとことで云うなら「何も、本当になんにも」感じませんでした。フランス人の演奏家にはいろいろなタイプがいて、初めは違和感を感じても、なるほどそういうことかと、好みとは違ってもこの人が何をやりたいのかや、どういうところを目指しているかということは、日本人以上に強いメッセージ性をもっているので、だいたいわかってくるものです。
それがこの姉妹の演奏には、まったくなにも感じるところができないし、ま、どうでもいいようなことですがずっと自分なりにひっかかっていたように思います。

つい先日、久しぶりにそのラベック姉妹を見たのです。
NHKのクラシック音楽館でデュビュニョンという現代作曲家による「2台のピアノと2つのオーケストラのための協奏曲“バトルフィールド”作品54」というものが日本初演されました。
なんでもラベック姉妹の委嘱によって作曲されたものらしく、2台のピアノとオーケストラが舞台上で二手に分かれ、しかもこの音楽は戦争であると公言し、それぞれが「戦う」というのですから、これはなかなかおもしろい試みじゃないかと思いました。
ピアニストはそれぞれの軍を率いる隊長という設定なのだとか。

指揮はビシュコフで、初めて聴く異色の作品であるにもかかわらず、ピアノが鳴り出すと昔の印象がまざまざと蘇り、早い話が、曲がどうとか、楽器編成の面白さがどうということなどもそっちのけで、とにかくまたあの「何もない、何も感じない」演奏が延々と続き、かなり我慢してみましたが、とうとうこらえきれずに途中で止めてしまいました。

お姉さんのほうは、左足でパッタパッタとリズムをとりながら、獲物に噛みつくような表情をしばしば見せながら、オンガクしてます的な弾き方をし、妹のほうは常に冷静沈着、何があろうと淡々と指だけを動かしているようで、両人共に見た感じも音楽的必然がないのであまり惹きつけられるものがないし、何より肝心なその演奏はというと、マロニエ君にとっては好きも嫌いもない、ひたすら退屈というので、本当に不思議なデュオだと思いました。

ラベック姉妹の魅力がどこにあるのか、おわかりの方がいらっしゃれば教えて欲しいような気もしますが、そうはいってもたかだかマロニエ君にとっては趣味の世界のことですから、人から教わってまでこの姉妹の演奏の魅力を追求する必要もないというのが正直なところです。

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