対象がなんであってもそうでしょうが、機械ものの技術者というのは、ときにユーザーの意見や証言を尊重せず、自分の経験則や判断を絶対視する傾向があるようです。
マロニエ君はこれまでに何度この手の「誤診」により、車の故障などで、二度手間、三度手間をかけさせられたかわかりません。これはたぶん医師にもあることだろうと思いますが、こちらは健康、ひいては命にかかわることなので笑い事ではすみません。
おそらく技術者の意識の中には、相手はシロウト、対する自分はその道のプロフェッショナルだという優越意識があって、相手の云うことを貴重な情報として丁寧に聞こうとする姿勢が足りないものだと考えられます。
確かにユーザーは技術的には素人であることは間違いないけれども、その機械なり車なり(あるいは自分の身体)とは、毎日のように関わることで、長時間にわたり不具合の特徴などを深く知るに至っています。これに対して技術者は、解決を求められてはじめてその問題に相対するので、症状を慎重に観察・認識するだけの暇がないというのはわかりますが、ここで独断に走り、ユーザーの訴えに対して謙虚に耳を貸すということを怠ってしまうことが少なくないように感じます。
先日も、この連日の猛暑の中、我が家のツインのエアコンの片側から水漏れが発生し、それが下の棚やカーペットに容赦なくしたたり落ちるので、すぐに設置した業者に電話すると、明日行くので今夜はバケツなどを置いて凌いでくれという対応でした。
翌日、その業者がやって来ましたが、見るなり「これは結露です」と、いとも簡単に結論づけました。その根拠というのが、ツインエアコンの片側はピアノ近くにあるので、冷風がピアノに直撃しないようにアクリル板を自分で加工して、風がやや上向きになるように対策していたのですが、曰くそのアクリル板のせいで風の流れが変向し、それが結露を引き起こしていると断じるのです。さらにはその根拠として、まったく同じ機械のもう一台のほうからは一滴の漏れもなく、この状態はメーカーが想定している標準の使用方法にかなっていないからそうなるわけで、だからこのままでは保証も受けられない可能性がありますよといって、今回の結露は「たまたま起こった現象」ということで、とくにこれという作業もしないまま帰っていきました。
ところが、この結露だと云われた水漏れの症状は日に日に激しくなるばかりで、しまいにはエアコンの下は雨が降るほどにボタボタと水がしたたり落ちる状態となり、このところの暑さもさることながら、部屋の中にそれだけの水が漏れ落ちて来るということは精神的にも非常にストレスとなり、たまらずにまた業者に電話をしました。しかし、向こうが云うには自作の風よけが原因だろうから、どうしても気になるならそのアクリル板を外してみてくださいという指示でした。
それでもダメなら伺いますというので、この頃にはいささか立腹ぎみでもあったので、ピアノのためには必要な風よけ(せっせと作った)をバリバリと一気に外してやりました。「さあどうだ」といわんばかりに。
しかし、結果的にはそれでも水漏れは一向に治まる気配はなく、あいかわらず水はボタボタで、エアコンの下は大小のバケツや受け皿が4つも並んでいるという見るも情けない状況です。
当然その旨連絡をしたことはいうまでもなく、向こうも観念したのか、深夜でしたが、それから一時間ほどして首を捻りながらやってきました。機械のカバーが外されると、その中は業者のほうが驚くほどの水浸しで、さっそくその原因究明と作業が開始されました。
結論から言うと、水を排出するドレンとかいう部品の結合部分や、排出の経路の勾配の付け方に問題があることが判明し、これはすべて取付時の作業に問題があった由、最後は恐縮しながら、件のアクリル板が問題ではなかったことをしぶしぶ認め、作業が終わったのは真夜中のことでした。
まったくお互いにトホホな次第で、拙速に断定するからこんなことになるのです。