あるピアニストについて、長いことファンを任じているマロニエ君としては、この人のCDが発売されれば、それがいかなるものであろうと購入する事にしています。
先ごろも、イタリアのとあるレーベルから、ピアノデュオコンサートのライブCDが発売され、正直あまり気乗りはしなかったのですが、これはマイルールでもあり、半ば義務なのでしかたがありません(ばかばかしいですが)。
レーベル同様、コンサートが行われたのもイタリアのようです。
聴いてみても、予想通り内容があまり好ましいものではなかったこともあり、名前は敢えて書きませんが、もちろんお詳しい方にはおわかりかもしれませんし、それはそれでいいと思っています。
このピアニストはご自分のことはさておいて、客観的にどうみても大したこともないような変な若者を連れてきては、絶賛したり共演したりということが毎度のことなので、実力に見合わない相手との共演もいつものことで、我々ファンはそんなことにもとうに慣れっこになっています。
それにしても、このお相手はあまり音楽的な趣味のよろしいピアニストではなく、せっかくの演奏もかなり品性を欠いた残念なものになってしまっていました。しかも相手が相手なので、この時とばかりにいよいよ張り切るのでしょうが、根底の才能がてんで違うのだから、どうあがいても対等になれる筈もないわけですが…。
それはそれとして、このコンサートでは2台とも日本製ピアノが使われており(イタリアではわりに多いようです)、しかもその録音ときたらマイクが近すぎるのが素人にさえ明らかで、うるささが全面に出た録音になっており、一人のスターピアニストがそこにいるということ以外、すべてが二流以下でできあがったコンサート&CDだという印象でした。
クラシックの録音経験の少ない技術者に限って、マイクを弾き語りのようにピアノに近づけたがり、リアルな音の再現を目指そうとする傾向が世界中にあるようにあるように思われます。しかしピアノの音というものは、近くで聴けば雑音や衝撃音、いろいろな物理的なノイズなどが混在していて、まったく美しくはありません。これはどんなに素晴らしい世界の名器であってもそうだと言えるでしょう。
ピアノの音を美しく捉えるためには、まず楽器から少し離れないことにはお話にならないということですが、ブックレットに小さく添えられた写真を見ると、至近距離にマイクらしきものがピアノのすぐそばに映り込んでいるので、ほらねやっぱり!と思いました。
結果として、ピアノの音が音楽になる前の生々しい音が録られているわけですが、そこに聴く日本製ピアノの音と来たら、なんの深みもない軽薄な、あまりにも安手の音であったことが、図らずもひとつの真実として聞くことができたように感じられました。
もちろん使われているのはフラッグシップたるコンサートグランドなのですが、こうして近すぎるマイクで聴いていると、同社の普及型ピアノとほとんど同じ要素の音であることに愕然とさせられ、血は争えないものだということがまざまざとわかります。
製品にもメーカー固有の遺伝子というのがはっきりあるということで、聞くところではコンサートグランド制作は、普及型とはまったく別工程で限りなく手作りに近い方法によって入念に作られているというような話を聞いたことがありますが、こうして聴いてみると、ほとんど機械生産のそれと同じような音しかしていないのが手に取るようにわかりました。
だったら、まだるっこしいことはせずに、試しにいちど普及品と同じラインで、同じように機械生産してみたらどうかと思いましたが、ときどき本気のピアノを作るとき以外は、もしかしたらそれをやっているのかもしれないような気がしました。